今年の統一地方首長選挙は実に話題が豊富だ。その中で、真面目な研究者や政治評論家だけでなく、ちょっとバラエティー番組的な視点で目を引くのはやはり東ジャワ州知事選挙だろうか。
現職のサイフラ・ユスフ副知事が知事に立候補し、その副知事候補には国会議員のプティ・グントゥール・スカルノが選ばれた。この名前だけでぴんと来る人も多いだろう。ユスフ氏はこの国最大のイスラム団体ナフダトゥール・ウラマー(NU)創設の功労者ビスリ・シャンスリ師の曾(ひ)孫、プティ氏は建国の父スカルノ初代大統領の孫である。メガワティ元大統領のめいになる。
このふたりの組み合わせが注目されるのは、やはり東ジャワという土地柄が大きな理由だろう。スカルノは州都スラバヤ生まれで、バンドン工科大学に進む前の成長期をスラバヤで過ごした。州内のブリタール市には立派なお墓がある。一方、NUにとって東ジャワはNU創設の地であり、牙城でもある。例えばスラバヤから1時間ほどのジョンバン市はイスラム学生の街と言われ、数千人の生徒や学生が学ぶイスラム塾がいくつもある。東ジャワはインドネシア国家と民族を形成する大きな潮流となった民族主義とイスラムの故郷とも言える。
名門の血筋のふたりがこれほど格好の舞台に登場したのだから、対立候補などおそれ多いと思いきや、女性ムスリムの間で人気が高い閣僚経験者のコフィファ・インダル・パラワンサ氏が出馬したので東ジャワがますます注目されている。日本との関係では、その副知事候補であるエミル・ダルダック氏が立命館アジア太平洋大学で開発経済学博士を22歳の最年少で取得したことに目が向くが、彼は一昨年、31歳の若さでトゥレンガレック県知事に就任した気鋭の政治家だ。テレビ討論でも堂々としていて論旨も要を得ている。
今年の統一首長選挙の有権者は全有権者数の75%を超えるマンモス選挙。候補者は背水の陣だろうが、来年の議会選挙と大統領選挙を控えた政党も必死だ。それゆえに、各地では様々なドラマ、良くも悪しくもこれぞインドネシアというドラマが展開されるのだろう。無責任な観客気分はどうしても抜けないが、しっかりドラマの展開を見届けたい。(了)
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