城田実さんコラム 第43回 ジョコウィを後押しするものは何か? (Vo.102 2019年5月21日号メルマガより転載 )

 大統領選挙の開票作業は5月15日時点で全国34州のうち26州で集計が完了したと報じられた。最終的な選挙結果の発表が早まる可能性も出ているらしい。しかしプラボウォ陣営が選挙プロセスの不正を理由に開票結果を拒否する姿勢を強めているので、選挙をめぐる緊張はまだ続きそうな気配である。そんな中、政界では早くも組閣あるいは改造に向けた各党の動きやそれに伴うさまざまな憶測が盛んになっている。

 そうした動きが顕在化した直接的なきっかけは、プラボウォ陣営に属する2政党の代表がジョコウィ大統領と会談したことと、汚職事件で取り調べを受けている閣僚3人が容疑者とされる公算が高まっていることだろう。

 選挙速報がジョコウィ候補の事実上の勝利を報じてから間もない4月末から5月初めにかけて、国民信託党と民主党の代表が別個に大統領と会談した。第1期ジョコウィ政権でも両党は野党の立場を貫いていないので、この動きは事前にある程度予想されていた。2党の合流で与党の数が増えれば、ジョコウィ氏とともに選挙を戦ってきた政党にとっては次期政権での入閣など人事上の論功行賞にも影響するだけに、政界全体の動きが一挙に慌ただしくなった。他方、汚職疑惑の3人はエンガルティアスト商業相(ナスデム党)、ルクマン宗教相(開発統一党)、イマム青年・スポーツ相(民族覚醒党)で、それぞれ別の汚職事件への関与が強く疑われている。容疑者になれば更迭は避けられないとみられている。大統領周辺からは「断食明け正月後」に改造という発言も出ている。改造が現実になれば、10月の大統領任命式後の組閣人事とも連動すると思われるので注目されている。

 

 新内閣の人事が注目される理由はもう一つあるように思われる。ジョコウィ大統領は国家開発計画協議会を招集した席で、「今後の5年間は、私には政治的な負担はもうない。再び大統領選挙に出馬することもないので、国家にとって最も良いことを実行する」と発言したと伝えられる。大統領の意欲が伝わる発言だが、ジョコウィ氏が「政治的な負担」のためにやりたくともできなかったこととは何なのか。メディアや識者の間では色々な議論を生んでいるようである。

 大統領の最初で最大の仕事は組閣だから、5年前のジョコウィ氏の宿願でもあったはずの、政党の圧力を受けずに能力重視で清廉な内閣を今度こそ実現したいということだろう、と期待を膨らませる意見もある。大統領諮問委員のシャフィー・マアリフ元ムハマディア(イスラム団体)会長は、ジョコウィ大統領に対して、自立して組閣し、プロの専門家集団を作るよう助言したと言われる。政党出身の閣僚が政党の利権と癒着のための最前線のようになっている現実は、いみじくも先の3閣僚の疑惑がまざまざと現している。しかもこの疑惑は閣僚の不正が国会議員の腐敗に連結していることまで国民に印象付けている。こうした閣僚が政策の正しさと実効性を大きく損なっているのは言うまでもない。


 大統領の組閣準備は新たな閣僚級ポストの創設も含めて着々と進んでいるようである。ジョコウィ氏を支えた政党側は、政党推薦の人材には閣僚が所掌する分野の専門的なプロも十分に存在するという議論を盛んに行って、国民の政党不信を和らげようと必死である。大統領も、閣僚の資格をプロフェッショナルか政党人かの二分法で判断するのは適当でない、と述べていると伝えられる。大統領としては、政党の意向に配慮しつつも、デジタル革新や第4次産業革命の時代に相応しい人材をミレニアム世代からも大胆に登用する意向で、政党の党利党略には振り回されないという自信が発言に現れたのかもしれない。しかし、大統領選挙で公認政党の組織的運動が勝利に貢献した事実や、政党党首でないジョコウィ氏の政治的な弱点などを踏まえると、大統領がどこまで実際に政治力を発揮して目指す人事を行えるかは楽観できない。

 「政治的な負担でできなかったこと」で話題になったもう一つのテーマは「過去の重大な人権侵害」への取り組みだ。内閣や政府高官にその当事者や利害関係者が今も存在するので、文字通り政治的な負担そのものだからだ。むしろジョコウィ政権下で発生した新たな人権侵害に対しても大統領は無力だったという見方すら出ているので、大統領にとっては人権問題を含めて軍・警察が関係する問題は微妙である。


 そもそも「次の大統領選挙への出馬なし」は、果たして政治負担の軽減そして政治的なフリーハンドの拡大につながるのだろうか。ジョコウィ氏の魅力で今年の選挙を有利に戦うという政治的な利用価値を政党側も認めていたからこそ、これまで大統領は政治的な指導力を発揮できたという解釈もできる。政治的な負担のないジョコウィ大統領にはむしろ厳しいシナリオが出てくる可能性もなくはないだろう。第2期のユドノヨ大統領は第2党以下を大きく引き離した民主党に支えられ、しかもオーナー党首だったのに、与党だったはずの他党のわがままに何度か苦渋をなめさせられた。ジョコウィ氏が出身母体の闘争民主党から単なる一党員と呼ばれる扱いを長い間受けていたのも記憶に新しい。

 第2期ジョコウィ政権はどのような政治環境の中を進むのであろうか。部外者の素人論議になってしまうが、やはり前回大統領選挙時の湧き上がるような国民的な支援をもう一度取り戻してほしいという国民の期待は今も大きいと思う。自前の政党基盤を持たないジョコウィ大統領にとっては、2024年に各党が応援を頼みたくなるような国民的な支持が生まれれば、「国家に最も良いこと」を実現するのに必要な政治力も発揮できそうな気がする。ここまで書いてくるとその続きには、自民党をぶっ壊すと叫んだ小泉総理のイメージがつい浮かんできてしまう。やはりインドネシア流の政治の流れをじっくり拝見して、余計なことは考えないようにした方が良さそうだ。(了)

チカラン日本人会 (CJC)

西ジャワ州ブカシ県チカランやカラワンに住む日本人の集い「チカラン日本人会」は2015年11月に発足。地域のさまざまな情報を交換し、問題を共有、解決を図る組織を目指していきます。

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