アホック前ジャカルタ州知事の宗教発言を糾弾する集会がスハルト政権崩壊後では最大級と言われる規模に発展するまで、リジク・シハブという人物は一般にはあまり馴染みのない存在だった。せいぜい、断食月に夜遅くまで開業しているナイトクラブは許せないと、集団で襲撃、破壊を繰り返していた強硬なイスラム団体FPIの創始者として知られていた程度であろう。
そのアホック糾弾大集会(212集会)で活躍したイスラム法学者11人チームが、先月下旬に大統領と秘密裏に会談していたことが今月明らかになった。11人チームの会談目的は、212集会に関与したイスラム指導者に対する警察の捜査や調査を中止するよう大統領に要請することで、シハブに対する捜査はその主要目的の一つだった。しかもその数日後には、シハブ氏の国章等侮辱容疑捜査を証拠不十分で正式に終了すると警察が発表したので、一部の支持者はにわかに彼の「大物ぶり」を喧伝し、良識派を自認する人々からは政治による法の執行への介入を懸念する声が出た。警察は、捜査終了決定は2月だったと大統領面談の影響を打ち消しているが、憶測はなかなか止まらない。もっとも彼はこの他にもわいせつ疑惑やキリスト教侮辱など五指に余る事件で告発を受けている。
シハブ氏は、昨年4月からサウジアラビアに出国して警察の聴取にも応じていない。この海外逃亡のような状況が逆に同氏の存在を大きく映す結果になっているから皮肉だ。野党の有力政治家やイスラム関係者がシハブ詣でのように彼と面会するし、その度にそのニュースが国内に伝えられるからだ。最近は与党の政治家までが面会している。
イスラムに協調的か、敵対的かで社会を無理矢理に二つに分けるような風潮がこの国の将来にとって健全なはずがないし、今のインドネシアにはそんなことにエネルギーを割いている余裕はないはずだ。彼の大物イメージが虚像か実像かは別としても、単に違法行為の責任を回避しているだけの彼の存在が、イスラムを敵視する政府という批判に口実を与えているとすれば、多少でも不毛な対立緩和のために、苦渋を飲んで一歩を譲ろうとしているのかも知れない。
212集会に同調的だった著名なイスラム指導者でも、今はジョコウィ氏に理解を示している人は多い。それがソロ市長時代から警察力に過剰に頼らないジョコウィ氏の対話作戦の成果なら明るいニュースだし希望もある。しかし他方で、選挙関係者の中には、アウトローやそのギリギリの世界の住民を手駒にすることを勲章にしてきた元軍人や諜報関係者も少なくない。ゆめゆめそういう人たちの選挙対策が、百年の計を誤らせないよう願っている。(了)
0コメント